僕のファンタジークラブ 後編

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僕のファンタジークラブ 前編 - それなら最後に踊ろうよ

 

5/24にリリースされた「FANTASY CLUB」

このアルバムを聞いて自分の問題意識と重なる部分もあってか、衝撃を受けた。ひしひしと感じるtofubeats氏の苦悩。それはストーリーとなってアルバムに載っていたように思える。

 

僕なりにこの「FANTASY CLUB」がどんなストーリーだったのかを、まとめてみよう。

 

M1のCHANT #1ではある種、今回のアルバムの結論を言っているようなイントロで始まる。知るということの恐怖。

移り変わる世の中はストーリー 

いつの間にか思ってない方に ああ

恐ろしいもの 触れてしまう時

これ以上もう気づかないで

CHANT #1 / tofubeats

CHANT #1

CHANT #1

「知って良いことなんて、もしかしたらないのかも。なら知る必要なんてない、気づく必要なんてない。」僕は歌詞を見て、実際に音楽を聴いて、視聴者に対して注意書きならぬ注意聞きをさせているなと感じた。「それでも聞くの?それってもしかしたら知る必要のないことかも。それでも聞きたいなら聞いてね。」と覚悟を迫られる気分にさえなるのだ。

そんな覚悟を問うたのちに流れ込んでくる楽曲が、前述した「SHOPPINGMALL」だ。

SHOPPINGMALL (FOR FANTASY CLUB)

SHOPPINGMALL (FOR FANTASY CLUB)

 「今の社会って僕はこう思うんです。でもそれって良いことには思えないんです。何を信じて生きていけばいいの?」という思いが素直に表現されている。

そんな暗中模索の中、「同じような思いを持っている人って、たぶんどこかにいる。どこかはわからないけど、大声で叫べば、もしかしたら声は届くかも。踊り続ければ、もしかしたら探し出せるかも。」と歌うのがM3「LONELY NIGHTS」

LONELY NIGHTS

LONELY NIGHTS

「もしかしたらこの人?でも違うかも?やっぱり本当のことなんてわからない。とりあえずは一緒に踊ったけど、よくわからない。結局孤独じゃん。」と一瞬見えた光明も、幻のような存在に感じて、一瞬は消えた孤独も、また見え隠れし始めてくる。他人と触れ合うことで解決しようとする、そんな自分以外の誰かを表現するためにも、YOUNG JUJUの存在は大きいだろう。そして、その後「答えはどこ?どうすればいいの?」となるのがM4「CALLIN」

真夜中のphonecall

見えない所からまなざしを

真夜中のphonecall

知りたくないこと 知りたいことがある

CALLIN / tofubeats

CALLIN

CALLIN

  知りたいことを知ろうとすればするほど、知りたくないことも耳に入る。確かにそれは辛いことだが、そういった過程を経て、M5の「OPEN YOUR HEART」が来る。

正解や正しさはたぶん自分のやりたいことをやれば見えてくるんじゃないか?自分のしたいことに素直になろう。やりたいことをやってみよう。という中でM6「FANTASY CLUB」M7「STOP」というインストの2曲が入る。

そうした自分と向き合った後に人と関わりあうと、不思議と世界の見え方が変わっていた。またそうしたマインドで向き合った人は、自分の持っていないものを持っていて、それはもしかしたら自分の求めているものかもしれない。知らないことを知ること、それが、自分を作り、ひいては求めているものに辿り着けるのかもしれない。そんなマインドを歌っているのがM8「WHAT YOU GOT」

夜から朝までparty

窓開けたらめちゃsunny

何を得たのかわからない

取り出して並べてみたい

新しい音たくさん浴びたいまだまだ 不完全

君と踊りたいしうまくいきたい

他のこととか別にいいよ

WHAT YOU GOT / tofubeats

WHAT YOU GOT

WHAT YOU GOT

 自分を知るという一つのプロセスを経た後の、人との出会いは確実に希望であり、そこに何かしらのモノやヒントを求めていた。そしてその出会いは、今までの自分には全くなかった穏やかな気持ちを授けてくれる出会いであった。その穏やかな時間から「答えなんてない。答えを出して何になる?それって愛の形に正解を求めるようなものだ」という気持ちをメロウに表現するのがM11「YUUKI」

踏み込んだ道の途中

きっと何かの感情

歩き出すその勇気

持っているだけできっと

大丈夫

愛しあう

It's Sunny Sunny Sunday

晴れた日には街に出かけよう

いつかは噛み合って

どんな時も君に

会いたいな

YUUKI / tofubeats

YUUKI

YUUKI

 この経験から得たものは大きく、そして意外なものであった。自分が忘れていたような感情、それは晴れた日曜日は外に出かけてみるとか、気づけば笑っちゃうようなことだったけれど、忘れていた感情を思い出すと、今自分が抱えている答えなき問題の捉え方も変わってくる。そんな自分にいろんな感情を思いださせてくれる、そんな存在に導かれている自分を歌うM12「BABY」

BABY 君だけを見て 君だけを見て

導かれる 導かれる ナナナナ

BABY / tofubeats 

BABY

BABY

 そして自分の求めている真実や答えがあると思ってきた、桃源郷のような存在の「FANTASY CLUB」はリアリティにかける存在ということをわかりつつも、どこかで出会えれば良いな、という希望を抱く存在として彼の中に居続ける。

FANTASY CLUB

入れたらいいな

信じたいことを

信じたらいいじゃん

でも簡単には

いかないしなって

音鳴らしたりした

FANTASY CLUB

CHANT #2 / tofubeats 

CHANT #2 (FOR FANTASY CLUB)

CHANT #2 (FOR FANTASY CLUB)

 ここまでのプロセスで、答えという一様なものを求めすぎていた自分に気づく。そしてそれは間違っているわけではないけど、たぶん答えなんて死ぬまでわからないかもしれない。もしかしたら死んでもわからないかもしれない。そんな永遠とも言える問いに対して、思いつめて考える必要なんてないのかもしれない。だったら自分にできること、それをやり続けていくことが、何よりも真実に近づける一つの答えだったのではないだろうか。

そしてその答えにたどり着いた氏自身の成長、そして気持ちがイントロ曲とアウトロ曲のCHANTにとてもよく表れている。自分の抱える問題を一つ乗り越えた感じがするのだ。

tofubeats氏のメジャーデビューしてからの音楽性は良し悪しではなく、かなりポップなものになった。First Albumしかり、POSITIVEしかり。音楽性を見失ったという印象ではなかったが、メジャーという世界で模索している姿を曲から感じた。

だが彼自身の一番の躍進となったきっかけの曲「水星」はポップさの中にどこか暗さがあるといったそんな曲だったように感じる。そして何より、人となりが表れていた曲だと思っている。それは今までただ逃げのように「エモい」と表現していたが、そのエモさこそ、tofubeats自身の人となりなのではないか。と「FANTASY CLUB」を聞いて確信した。

今回のアルバム、一番最後にやった作業がCHANT #2のアウトロを作ることだった。ピッチが下がっていってそのまま終わるのも悪くはないが、どうもアルバム全体が締まらないような気がして何日も頭を悩ませていた。

(中略)

いろいろ思慮を巡らせつつ、今回はフィールドレコーディングにしてみたらどうか、と思い、とりあえずレコーダーを持って、いろんな場所に向かってみて、音を録ってみることにした。普段外では音楽を聞きながら歩いているので、そこでどんな音が流れているのか、改めて見つめ直すことはとても新鮮で意味のあることだった。

例えば最後に聞こえる汽笛の音がそうだ。神戸にいれば実は結構な山側にいても汽笛の音が聞こえることはよくある。海に出るまで20分〜30分以上かかるであろう場所でも、山地を背にした神戸でそれが聞こえることはおかしいことではない。ただ、こうして録音してみないと汽笛が普段聞こえていることなんてすっかり当たり前になってしまい、忘れてしまっているのだ。教会の鐘の音もそうである。人間の耳というのは都合よくできていて、知らず知らずのうちに驚きのないものは奥の方に仕舞い込んでしまう。レコーダーで録音することによってそんな音の数々を洗い出していった。そうして自分が好きで何度も向かっている場所からいくつかの音を集めて、それらの音が重なって再生してアルバムは終了する。大体は自分が一人で気分転換に向かう場所の音だ。今回は晴れの日を待つ余裕もあったのもラッキーだった。

「FANTASY CLUB」初回限定ライナーノーツより tofubeats

自分を育ててくれた場所が荒廃し始めている悲しさ、そのことから感じる孤独。荒廃に対する少しの怒り。そんな一気にはとても消化できないであろう息苦しさ。それを解消してくれるのは、他人でも、環境でもなく、自分自身の行動や気持ちの持ちようでしかなかった。答えはいつも自分の中にある(のかも)、というような答えとも言えない、付け焼き刃のような答えでも、氏にとっては少しだけ胸を撫で下ろせるような、そんな答えであったに違いない。そんな一種の答えまでに辿り着くまでのプロセスをストーリー化したものが、「FANTASY CLUB」なのだろう。

 こうしてファンタジークラブは終わる。

僕のファンタジークラブはどこにあるんだろう。

そんな事を考えながら、無機質にイヤフォンから流れる神戸の汽笛を聞いていた。

 

 

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